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――赤い、花が咲く。 * * * 方舟の中に再現された架空の町並み。 多種多様な建物が混在する幻の町にとある日本風の屋敷があった。 その縁側で、それなりに広いがどこか閑散とした印象を与える庭園を眺めながら、"彼女"は酒を呷った。 「――――」 縁側の柱に背を預けるその女は、人の目を引く容姿をしていた。 梅花のような鮮やかな赤い髪、大きく着崩した着物……それらも勿論目を引くが、彼女と相対した時最も目を奪われるのはその顔――厳密に言うならば顔の左側に刻まれた大きな傷跡だろう。 元々の容姿が整っているだけに、左目を潰したその大きな傷跡は否が応でも印象に残る。 そして夜風を受け、右側の袖も不自然なほどに大きくはためいた。 徳利とお猪口を片手で扱うその所作を見れば、彼女が隻腕だということは用意に想像できるだろう。 隻腕隻眼の女――その名を梅喧という。 彼女は他に何をするでもなく、酒を飲みながら、ただ夜空を見上げている。 視線の先には月がある。 本物ではない、『方舟』の内部に映しだされた幻の月だ。 だが少なくとも見てくれや降り注ぐ月光の色は、自分の知る月と寸分も違わない。 「――ふむ、月見酒とは此度のマスターは風流なことよ」 座敷の奥から現れたのは青い陣羽織の美丈夫である。 身の丈ほどもある長刀を背負いながら、その動作には澱みがない。 「アサシン、お前も飲むか?」 「うむ、頂こう」 梅喧からお猪口を受けとるアサシン。 澄んだ液体が限界まで注がれたところで、くい、と飲み干す。 「――ああ、旨いな」 熱い液体を嚥下する感覚。 データで再現されたとは思えない、確かな熱がアサシンの喉を焼く。 舌を焼く辛味と全身に広がる熱を楽しむアサシンに対し、梅喧が口を開く。 「……それで、テメェはいいのか?」 「何が――というのは無粋だな。 私の望みは唯一つ、強者と死合うこと。 ……であればマスターの望みはむしろこちらにとっても望むところよ」 そう言ってアサシン――佐々木小次郎は涼やかな笑みを浮かべる。 今回の聖杯戦争では山門による縛りもない。 細かい策を弄するあの女狐もいない。 心ゆくまで戦いに興じれるというものだ。 一方でマスターである梅喧も策を弄するのは苦手だ。 聖杯戦争だの何だのと言ってはいるが、結局のところ結論は同じ。 最後の一組になるまで戦い抜けばいいのだ。 やっと掴んだ"あの男"に辿り着くための道。 この好機を何としても逃す訳にはいかない。 たとえどんな相手が目の前に立ちふさがろうと、だ。 再び空を見上げればそこには変わらず、煌々と輝く月がある。 本物よりも澱みのないかも知れない月光の下で、しばしの間、主従は酒を酌み交わす そして――徳利から最後の酒が消える。 「――行くか」 「心得た」 そして二人は言葉少なに立ち上がり、屋敷を後にした。 赤と青、二人のサムライが街を行く。 彼らがこれから向かうは戦場(いくさば)。 その行先に咲くのは一輪の花。 屍山血河の中に咲く、血よりも赤い真紅の花。 【クラス】 アサシン 【真名】 佐々木小次郎@Fate/stay night 【パラメーター】 筋力 C 耐久 E 敏捷A+ 魔力 E 幸運 A 宝具? 【属性】 中立・悪 【クラススキル】 気配遮断:D 自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。 「透化」スキルからの派生であり、厳密に言えばアサシンは気配遮断スキル自体は有していない。 【保有スキル】 心眼(偽):A 直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。 視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。 透過:B+ 明鏡止水の心得。精神干渉を無効化する精神防御。 宗和の心得:B 同じ相手に何度同じ技を使用しても命中精度が下がらない特殊な技法。攻撃を見切られなくなる。 燕返し 対人魔剣。最大補足・1人。 全く同時に3つの斬撃が襲い掛かる回避不可能の必殺剣。 三連続ではなく三つ同時に存在する斬撃であり、魔法の一つである多重次元屈折現象を実現している。 愚直なまでにただ一つのことを繰り返した男がたどり着いた剣技の境地。 【宝具】 なし。 【weapon】 備前長船 刃渡り3尺(90cm)全長5尺(150cm)の長剣。 物干し竿とも呼ばれるアサシンの愛刀。 【人物背景】 冬木市で起こった第五次聖杯戦争にて、キャスターが召喚したアサシン。 本来なら冬木においてアサシンは山の翁と呼ばれるある英霊のみが該当するはずであったが、 サーヴァントがサーヴァントを呼ぶというイレギュラーな召喚を行ったため、召喚された侍。 その技量は高く、(キャスターのサポートがあったとはいえ)剣技のみで各サーヴァントと対決し、互角に戦った。 ……実は佐々木小次郎本人ではなく、佐々木小次郎を演じるにふさわしい技量を持った無銘の剣士。 剣を振るだけで魔法の域に達した魔人。 花鳥風月を愛でる伊達男。 【サーヴァントとしての願い】 心ゆくまで戦う。 【基本戦術、方針、運用法】 クロスレンジであればかなりの技量を持つが、遠距離攻撃や宝具によるブッパ等には弱い。 マスターの戦闘能力が高いのでマスターとサーヴァントを同時襲撃するのも一つの手か。 【マスター】 梅喧@ギルティギアXX 【参加方法】 謎のギア"ゴフェル"と接触した。 【マスターとしての願い】 "あの男"の行方を探す。 【weapon】 日本刀 無骨な日本刀。無銘だがかなり丈夫。 暗器 全身に暗器を仕込んでおり、剣技と組み合わせて発動する。 【能力・技能】 戦闘技能 隻腕隻眼ながら高い戦闘能力を持つ。 が、"軍事レベルの脅威には成り得ない"、"目的は復讐のためコントロールは容易"などの理由から危険度は低めに設定されている。 【人物背景】 男勝りで生粋の格闘家であり、喧嘩っ早く人の話をあまりを聞かない。 自身の故郷を滅ぼし、自身の左目と右腕を奪った"あの男"を追っている。 時系列的には本格参戦より前の模様。 【方針】 優勝狙い。
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「……モーターショー、ですか?」 まだ、ピエトロ・ベルッチが少年と青年の境であった頃。 執務室で大きな机越しに主であるルカ・フェルネットと正対し告げられた言葉に対して、ピエトロは不思議そうな表情を浮かべた。 「そうだ」 重厚な革張りの椅子に腰掛けたルカが荘重に頷く。なんでも来週末から一週間、フェルネットの王国内にあるコンベンションセンターで複数の有名自動車メーカーが協賛するモーターショーが大々的に開催されるのだという。 基本的にこういったイベントは先行公開となる報道機関向けのプレスデーと招待客向けのオフィシャルデーを経て一般客向けの公開に至るというスケジュールなのだが、そのオフィシャルデーにルカが招待されたということらしい。この街の王、支配者として暗然たる権力を有するルカ・フェルネットだ、招待状が届くのも当然といったところだろう。 かつてこの街を手中にするため自ら鉄火場に出張っていた頃と違って、現在のルカの仕事のほとんどはそういったイベントやパーティー、セレモニーへの出席で占められていた。地元の名士の賛同と理解、それから後ろ盾を得ようと望む者たちには枚挙に暇がないものだ。ルカは寡黙でどちらかというと社交的な方ではない人間であったが、そういった打診を受けると毎回邪険に扱うでもなく、律儀に顔を出している。 ピエトロは知らなかったのだが、モーターショーの開催も今回が初めてではないという。前回は何年か前に開催され、その際はルカと相方のジャンマリオ・ブッフォンで出席したという話であった。 しかし―― 「今回はエステルを連れていく。お前も同伴しろ、ピエトロ」 ルカは今度のショーの同伴者に養女エステルとピエトロを指名してきた。 ピエトロは思わず目を瞬かせた。主がこういったイベントへ赴くなら、前回と同じようにブッフォンと一緒で然るべきと思っていたのだ。だいいち、自分はまだ十七歳で自動車の運転免許を持っていない。 「僕も……? ボス、シニョーレ・ブッフォンは――」 「ジャンはスケジュールが合わなかった」 ブッフォンは金庫番としてファミリーを管理運営するのに忙しく、予定が合わず出席見合わせになったのだという。既に、ピエトロがブッフォンからその後釜として主の身の回りの世話やスケジュール管理を任されて暫く経つ。主に同行して時間の調整などを行うことには何の異論もない。 「畏まりました」 ピエトロは頷くと、主の前を辞してからすぐに自分のスケジュール帳にモーターショーの日取りを付け足した。 ナッツィオナーレ・フィエスタ・デル・モトーレは世界的にも有名なモーターショーのひとつである。 国内の有名自動車メーカーたちがここぞとばかりに自社の最新ブランドや技術の粋を披露しては鎬を削り、それを目当てにした世界中の自動車ファンが集まる大規模な催しだ。車種も一般乗用車からF-1、ダンプやトラックといった作業用車、まるで百年先の未来から来たかのような先進的・前衛的なフォルムの車も展示されている。 「ふわぁ……」 コンベンション・センターの中にも外にもぎっしりと、それこそ綺羅星のように展示された車両の数々を前にして、ネイビーブルーのスーツをかっちりと着込んだピエトロと手を繋いだエステルが目を輝かせる。――もっとも、車のデザインやスペック等々に興味を覚えている訳ではない。スポットライトに照らされてキラキラと輝くカラフルな色合いの美しさ、会場を満たす光の洪水に感激しているらしい。 「きれいだねえ、ねー、ぴえとろ!」 「うん。とっても綺麗な車ばかりだ……」 ルカの先に立ち、リボンとフリルをふんだんにあしらったピンクのワンピースでおめかしした妹と一緒に展示会場の中を見回しながら、ピエトロもまたすっかり圧倒されてしまった。 このモーターショーへはブッフォンの代理として、ルカのスケジュール管理のために来ているというのに、本来の自分の役目も忘れそうになる。 ピエトロはそれまではあまり自動車には興味がなく、車との接点と言っても主のお供で大人の運転するリムジンの後部座席に乗り込む程度で何の感慨も抱いたことはなかったし、モーターショーを見に行くと言われても仕事の一環程度にしか思っていなかった。 が、ここまで大量かつ様々な車を見たことで、いやでも興味をそそられてしまう。 「凄いな……本当に」 興味を引く車が視界に入るたび、ピエトロはうっかりその場に立ち止まりそうになり、慌てて自分の役目を思い出しては歩を進めた。 そんな側近見習いの様子を見て取ったのか、ルカはモーターショーの主催者が自分のところへ挨拶にやってくるのを見ると、 「会場を見に行っていい」 と言った。自分が招待客としての仕事をしている間、自由行動でもいいと言っているのだ。 「はぁーい!」 「……でも、ボス……」 エステルは嬉しそうに片方の手を挙げたが、ピエトロは戸惑ったように主を見た。主の側近として来たというのに、その職務を放り出して車を見に行ったのでは意味がない。 「構わん」 ルカは一度かぶりを振った。 「エステルに大人同士の会話など聞かせても退屈なだけだろう。目だけは離すな」 どうやら、ルカは会場内では最初から子どもたちに別行動させるつもりでいたらしい。ブッフォンのスケジュールが合わなくなったというのは事実なのだろうが、その上で娘とピエトロを連れてきたというのは、華やかなモーターショーを見せて楽しませてやりたいというルカの不器用な愛情であろう。何せ老朽化していた劇場を最新設備のものに建て直させたり、セーフハウス兼任で別荘を作ったり、プライベートビーチへ遊びに行ったりと、娘の為には労を惜しまない親莫迦である。 妹エステルの面倒を見るというのも、主の側近と双璧を為す自分の大事な役目だ。であるのならなんの異論もない。 「ぴえとろ、はやくー! はやくあっちいこー!」 「うん。……ではボス、行ってきます」 「ああ」 エステルがしきりに繋いだ手を引っ張って催促してくる。主に一礼すると、ピエトロは妹と一緒に主の傍を離れて会場を見て回ることにした。 「ぴえとろ、あれ! わたし、あれにのりたい!」 二人乗りの丸っこい電気自動車を指差すエステルに付き合って、運転席に乗り込んだりしてみる。 それにしても、規模の大きなモーターショーである。企業ごとのコーナーの他にも用途別、車種別のブースが大量に設けられており、コンベンションセンターの外には試乗スペースもある。今回は招待客のみの公開日で会場は随分すいているが、これが一般公開日ともなれば最新の車を見に来た人々でごった返すのだろう。そうなってしまえば、ゆっくり車を見て回ることなどおぼつくまい。こうして招待客の同伴者として観覧を許されたのは幸運だった。 そうして兄妹で広大な会場内を楽しんで見回ることしばし。 「―――――」 それまでゆったりと展示を眺めていた視線が、ふと止まった。 手を繋いだエステルが不思議そうにピエトロの顔を見上げる。 ピエトロの双眸は、前方に展示されていたある車に釘付けになっていた。 ブガッティ・ヴェイロン スーパースポーツ カーボンブラック―― 仏ブガッティ・オートモビル社が製作したシリーズのフラッグシップモデル、世界最速のハイパーカーである。 「……バットモービルみたいだ」 差し色の一切ない漆黒のボディに、中央の特徴的なグリルの形状。その姿にかつてファミリーの養い子として同年代の子どもたちと共同生活していた頃に観た映画のハイパーマシンを思い出す。 他にも虹のようにカラフルだったり、美しい色合いの車はあったというのに、ピエトロの目にはこの闇夜のように黒い車が会場のどの車よりも美しく輝いているように映った。 ボディラインにフィットしたきわどいコスチュームのコンパニオンからにこやかに手を振られてもまるで目に入らず、ピエトロはヴェイロンへ歩み寄ると、展示されている車両を食い入るように見つめた。 兄が夢中で一台の車を見詰めている様子に、エステルがぱちくりと丸い目を瞬かせる。 「ぴえとろ、このくるま、ほしいの?」 「え?」 「なら、ぱぱにかってもらおー! えすてる、おねだりしてあげる!」 エステルは無邪気に笑った。自分がねだれば車だって飛行機だって、父親はなんでも買ってくれるのだと信じている。 ピエトロは車両の脇にあるスペックや情報の書かれたパネルを見た。 ブガッティ・ヴェイロンのスーパースポーツは世界でも三十台のみの限定販売で、値段は約百九十万ユーロ(三億円)。 しかも購入には審査が必要で、身元のしっかりした人物でなければならないという。 「う~ん、僕にはちょっと高価すぎるかな……。だいいち、こんな高級車は手に余るよ」 「いらないの?」 「……う~ん」 妹のつぶらな瞳に見詰められ、ピエトロは思わず唸ってしまった。 欲しいか欲しくないかで言えば、欲しい。 こんな格好いい車のステアリングを握り、妹を助手席に乗せてハイウェイを気ままに走って行けたりしたらどんなにか爽快だろうと思う。 しかし、二百九十万ユーロといえば一財産だ。最近やっとマフィオーソとしての道を歩き始めたようなひよっこの自分にはとても捻出できる額ではない。だいたい、元々戸籍もなかったストリート・チルドレンの自分である。書類審査の段階で落とされるのは目に見えていた。 というのに。 「この車が欲しいのか」 後ろから聞こえた声にはっとする。振り返ると、そこには主催者との話を終えたらしい主が立っていた。 父娘で同じ質問をしている。血が繋がらなくても親子だ、と思った。 「うん! ぴえとろ、このくるまほしいんだって! ぱぱ、かって!」 「わかった」 即答である。黙っているとルカはさっそく契約書にサインしかねない、ピエトロは慌てて制止した。 「お、お待ちくださいボス!」 「なんだ」 「あの、お気持ちは大変嬉しいのですが、それは――」 ルカの夜闇色の双眸に見詰められながら、ピエトロは躊躇いがちに口を開く。 「僕はまだ免許を持っていませんし……、こんな高価なものを買って頂くほど、僕はボスのお役に立っていません。それに……」 「……それに?」 「ええと……自分が本当に欲しいものは、与えられるのではなく……自分で手に入れるべきだと、思うんです」 碧眼で主を見上げる。ルカはそんなピエトロの言葉に少しだけ沈黙したが、 「そうか」 と、特に気にする風でもなく引き下がった。 不興を買ってしまったかと、ピエトロは深く頭を下げた。 「すみませんボス、折角の御厚意を無碍にしてしまって」 「ぱぱ? かわないの?」 エステルが小首をかしげて問う。ルカは微かに目を細めてエステルの頭を撫でた。 「ピエトロは、プレゼントされるより自分で買いたいんだ。その方が嬉しいから」 「じぶんでかうほうが、うれしいの? ……ぴえとろ? そうなの?」 「……うん。そうだよ」 ピエトロは微笑みながら頷いた。父と兄の言っていることが理解できず、エステルは眉間に皺を寄せて『へんなの』と言うばかりであったが、元々さして関心のなかったことだ。メーカーのマスコットキャラを象った着ぐるみが会場を歩いていてるのを発見すると、きゃあーっと黄色い声を上げてすっかりそちらに意識を切り替えてしまった。 妹に手を引かれながら、ピエトロはもう一度照明の下で黒光りするハイパーカーを見た。 今の自分はまだ子どもで、この世界最速の車に見合うような人間ではない。 しかし、必ず。このハイパーカーを手にし、ハンドルを握るに相応しい男になってみせる。 ピエトロは密かに決意し、妹と共に展示コーナーを離れた。 ピエトロが十八歳になると、さっそくルカとブッフォンから自動車の免許を取りに行くようにという命令が下った。 表向きはルカが仕事で使用するリムジンの運転をするためということである。尤も、ファミリーには運転免許を持っている者が大勢おり、リムジンの運転手も幾らだって替えが利くのだが、持っていた方が何かと都合が良かろうとの配慮だ。 ルカの側近やマフィオーソとしての勉強の傍ら教習所へ通う。元ストリート・チルドレンで義務教育さえ受けられなかったピエトロにとっては、人生初めての学校である。 免許自体は問題なく取得できた。ルカもブッフォンも誉めてくれたが、ファミリーの中で一番喜んだのはイザベラであった。 「買い出しってひとりで行くと大変なのよね。車を出してくれればとっても助かるんだけど、なかなか頼み辛くて。でも、ピエトロに運転して貰えるなら助かるわ!」 現金なものだが、取得するだけしてペーパードライバーでいるのも勿体ない。どういう理由であれ車の運転をする理由が出来るのはいいことだろう。屋敷の広大な敷地内を回ってみたり、イザベラの買い物に付き合ったりして練習を続ける。 そうして徐々に運転に慣れてくると、遠出をしてみたくなるのが人情というものだ。すぐに終わってしまう近所への買い物ではなく、偶にはフェルネットの王国の境辺りまで車を飛ばしてみたい。 とはいえ、ルカもブッフォンも遊びで免許を取らせてくれた訳ではないのだから……とも思う。 そんなことを考えていると、ルカから使いを命じられた。部下の一人が屋敷から峠を二つばかり越えた街にいるファミリー構成員へ書類を届けに行くので、運転手として車を出せとのことである。 尤も、その書類自体は特段重要なものでもなければ喫緊の案件でもない。要するに口実で、遠出したくてうずうずしているピエトロの様子を見てのルカの心配りである。ピエトロに直接届けろと言わず間にひとり部下を加えたのは、初めての遠出で万が一何か不測の事態が起こった場合の備えだろう。おまけに、屋敷で退屈しているエステルも連れていけという。 「どらいぶ、どらいぶ! ぴえとろとどらいぶ~!」 「こら、僕たちは遊びに行くんじゃないんだ。大事な書類を届けに行くんだよ? もう……」 アリスブルーの膝丈ワンピースに、肩から小さなポーチを提げたお出かけスタイルではしゃぐ妹を助手席に乗せ、シートベルトを締めてやりながら軽く釘を刺す。 とはいえ、ピエトロもエステルと同じくらいにうきうきしている。後部座席に座っている先輩マフィオーソからは、目的地までのルートは任せると言われているから、一番眺望のいいコースを行こうと思っている。現在計画が持ち上がっているフェルネット・ファミリーの手掛ける一大プロジェクト、湾岸道路が完成した暁にはもっと素晴らしい眺めのドライブができるのにな……と思ったが、それはもう何年の先の話になるだろう。 天気は快晴、絶好のドライブ日和だ。ミラーと座席を念入りに調整し、カーナビに目的地までの道程を入力すると、ピエトロはやや緊張した面持ちでハンドルを握った。 屋敷を離れ、ハイウェイに入る。幸いにして道路状況も混雑しておらず、ドライブは快調で、ピエトロは念願通り思う存分運転を楽しむことができた。 エステルは助手席の窓から見える景色に釘付けになっている。危険なところには行かせられないというルカの意向で、なかなか外に出られず普段は屋敷の中にいることが多いエステルにとって、父親の仕事のついで――といった理由以外での外出は久しぶりだ。終始上機嫌で、あれは何? とかこれは? とか、窓の外の光景を指さしてはピエトロに訊ねてきた。車を運転することに集中しているピエトロには、そんなエステルの問いに応じる余裕はなくあまり受け答えはできなかったのだが、それでもエステルは機嫌を損ねるでもなく終始にこにこしていた。 ドライブを始めて二時間程度経過した辺りで、休憩を兼ねて昼食を取るために手近なサービスエリアへ立ち寄る。 屋敷でイザベラの作る料理や高級レストランのコース料理しか食べたことのないエステルにとって、庶民の利用するドライブインの安価な食堂はさぞかし目新しく映ったのだろう。きゃっきゃっと嬉しそうに笑って、陳列されているたくさんのパニーノやトラメッジーノを見てはあれが食べたいこれが欲しいと次々におねだりしてきた。 そんな妹に言われるままメニューを注文する。焼きたてポルケッタのトラメッジーノにトマトとモッツァレラのカルツォーネ、それからチョコレートやキャンディ、甘いジュース。普段ならどうということもないメニューでも、こうして遠出して露店などで売られているのを見ると格別美味しそうに見えるものだ。うっかりすると自分まで際限なく買い食いしてしまいそうになるのをなんとか抑え、妹に好きなものを与えると、一口齧って飽きたと残してしまった分を同伴者の先輩マフィオーソと自分とで食べる。 そんな我侭放題のエステルだったが、食事と休憩を終えて出発しようとすると今度は、 「アイスクリームが食べたい」 と言い出した。もう少し早くに言ってくれればとも思ったが、どうやらドライブインで食べるのではなく流れてゆく景色を眺めながらアイスクリームが食べたいということらしい。 お願いされると断れない兄莫迦であるし、確かに美しい風景を見ながらアイスクリームを食べるというのは美味しかろう。風景に夢中になってアイスクリームを忘れ、溶かしてしまって服を汚すところまで想像できたが、已む無しと諦める。 車を出て建物へ戻り、徒列に並んでアイスクリームを買う。色とりどりのカラースプレーチョコに彩られたキャラメルとストロベリーのダブル。 存外時間を取られてしまった。今日中に先方へ書類を渡し、屋敷へ戻るとしたら、少々急がなくてはならない。 しかし―― 「アッティーリオさん!?」 アイスクリームを手に車へ戻ったピエトロの視界に飛び込んできたのは扉が乱暴に開け放たれたリムジンと、車外で右肩から血を流し車体に凭れ座り込んでいる先輩マフィオーソの姿だった。 アイスクリームを放り捨てて傍に駆け寄り、容態を確認する。どうやら銃撃を受けたらしい、しかし幸い銃弾は体内を貫通しており、出血は酷いが命に別状はなさそうである。 「アッティーリオさん、これは……」 心配するピエトロに対し、先輩マフィオーソのアッティーリオは痛みに顔を顰めながら、 「すまんピエトロ、お嬢さんが攫われた……!」 と呻くように言った。 「エステルが!?」 ピエトロは仰天した。なんでもピエトロがアイスクリームを買いに車を離れた途端、風体の怪しい三人ほどの男がいきなりドアを開けて襲い掛かってきたという。アッティーリオはすぐに抵抗し激しい揉み合いになったが、肩口に銃弾を受けた挙句エステルを奪われてしまったらしい。 ピエトロは歯噛みした。エステルはビスクドールもかくやというほどの美少女だ、それに着ている洋服も上等のものと一目で分かる仕立てで、誰がどう見ても富裕層のご令嬢といった見た目をしている。 そんなエステルがドライブインの中で我儘放題にはしゃいでいれば、さぞかし目立ったことだろう。 一瞬、フェルネット・ファミリーと敵対する近隣のマフィアの仕業かとも思ったが、フェルネットの支配が行き届いている中心街近辺と違い、郊外にはマフィアになることも出来ないギャング崩れや不法移民などいくらでもいる。 いかにもお嬢様と言いたげな格好の幼女が無防備に目の前をうろついているのを見て、ひとつ身代金を――などと企む者がいたとしてもおかしくはない。 そうして影で様子を窺い、御付きの者の片割れ――ピエトロが車を離れたのを好機と見て取って、一気に襲い掛かったということなのだろう。 「俺のことはいい……、お嬢さんを……」 アッティーリオが呻く。 言われるまでもない。ピエトロは弾かれるように顔を上げると、周囲を見回した。 果たして、前方を不自然なほどの猛スピードでワンボックスカーが走り去っていく。あれかと目星をつけ、すぐさまリムジンの運転席に乗り込むと、ピエトロはアクセルを思い切り踏み込んでサービスエリアを勢いよく飛び出した。 「ぐ……」 見晴らしのいいハイウェイをワンボックスが爆速で走ってゆくのを見て、忌々しげに歯噛みする。 なかなかスピードが出ない。このリムジンはカスタムメイド品だ、要人警護用の特別仕様車と同じように防弾処理が施され、マシンガンの弾にだってびくともしない。 が、そんな堅牢さと引き換えに車体重量が犠牲になっている。ルカやブッフォンが移動するための車であるから、平素は速度を出す必要がないため問題はなかったが、現状に限っては甚だ不利である。 アクセルベタ踏みでエンジンが甲高い悲鳴を上げる。インパネの速度デジタル表記がやがて三桁を表示すると、身体全体に負荷がかかったような気がしてピエトロはヘッドレストに後頭部を押し付けた。 ワンボックスが四角い車体に似合わない俊敏さでどんどん前方の車を追い抜いてゆく。ピエトロもそれに追随して、間近に迫った車を何とかすり抜ける。 今まで近場の市街地を運転するだけで、自分の運転で遠出らしい遠出をしたことのなかったピエトロはきっちりと法定速度を厳守しており、今まで殊更スピードを出すこともなかった。そんな初心者マークがアクセル踏みっぱなしの三桁速度でハイウェイをぶっ飛ばしている。 束の間他の車の姿が消え、前方を走るのは目標のワンボックスだけになる。 三十メートルほど後方につけると、ハッチバックのガラス窓からエステルが見えた。エステルの方でも追跡する此方に気付いたらしく、窓に両手をぴったりとくっ付けて何事かを叫んでいる。きっと、此方の名を呼んでいるのだろう。 「すぐ助けてやる……!」 ハリウッド映画のようにカーチェイスで誘拐犯たちの車に頑丈なリムジンのボディをぶつけ、無理矢理停車させてやろうかとも思ったが、向こうにはエステルが乗っている。彼女が万一傷つくような行動は取れない。 助手席のダッシュボードの中にはもしもの場合に備えて拳銃も一挺用意されている。それを使用することになる可能性も今のうち考慮しておく。 と、前方のワンボックスの助手席の窓が開き、誘拐犯のひとりが発砲してきた。 特別防弾使用のリムジンは拳銃程度ではびくともしないが、フロントガラスに銃弾が命中し鈍い音が響くと、免許を取ったばかりのピエトロはどうしても怯まざるを得ない。ハンドル操作を誤り、大きく蛇行して反対車線まで飛び出してしまう。 危うく対抗の大型トラックに激突してしまいそうになるも、力の限りステアリングを切って危ういところでやり過ごす。更にありったけアクセルを踏み込み、ぴったりとワンボックスにつけると、やがて誘拐犯たちは逃走を諦めたのか、それとも目的地に近付いたのか、全速力で料金所を通過しハイウェイを降りて一般の田舎道へと進路を取った。 ピエトロもそれに追随する。やがてワンボックスが到着したのはフェルネットの王国の国境、うら寂しい田舎道の脇にあるどこから見ても廃墟と分かるモーテルだった。 誘拐犯の男たちが三人、車を乗り捨ててモーテルへ立て籠もろうとする。うちひとりはエステルの右手首を掴み、無理矢理引っ張っていく。 「ぴえとろ、ぴえとろぉ!」 「――エステル!」 よく知るファミリーの構成員ではない、見知らぬ男たちに無理矢理手を引っ張られる痛みと恐怖にエステルが泣き叫ぶ。 ピエトロも車から転がるように出、妹の名を呼ぶ。ダッシュボードから取り出した拳銃を握りしめ、誘拐犯たちと対峙する。 「動くな……! その子を、エステルを離せ!」 「うるせえ! テメエこそ銃を捨てやがれ、でねえとこのガキィぶっ殺すぞ!」 誘拐犯の首魁とおぼしき男がエステルを盾にするように抱き寄せ、その頭に拳銃を押し当てる。 ピエトロは強く奥歯を噛み締めた。逆上した誘拐犯をこれ以上刺激して万一エステルに危害の及ぶようなことがあってはならないが、といって銃を手放してしまえばみすみす嬲り殺しになるだけであろう。 「その子が誰の娘か、理解しているのか? その子はエステル・フェルネット、フェルネット・ファミリーのゴッドファーザー、ルカ・フェルネットの一人娘だぞ……!」 「ルカ・フェルネットだとぉ? 何をデタラメを……」 ざわ、と誘拐犯たちが動揺を見せる。マフィアにもなり切れないチンピラでも、この地域一帯を取り仕切るマフィアであるフェルネット・ファミリーの名は知っているらしい。 普通ならば到底信じられない荒唐無稽な法螺話だろうが、実際のところ男たちの攫った少女はその辺りの同年代の子どもたちとは比較にならないほど上等な衣服を着ているし、御付きの男と少年のスーツも仕立てが良く、なおかつリムジンは拳銃の弾などものともしない完全防弾使用だ。 それらの要素を加味すると、あながち出鱈目を言っているとも限らない……と、誘拐犯たちも遅まきながらに理解したようだった。苛烈で知られるルカ・フェルネットの身内を誘拐しようとした人間に対してファミリーがどういった報復に出るのかも、自分たちの犯した罪の重大さも。 「お、おい……」 「う……、うるせえ!」 すっかり尻込みしてしまったらしい仲間の声を、首魁の男が振り払う。 「こうなったら、ガキをネタに金をゆすり取るまでよ! フェルネットといやぁ押しも押されぬ一大ファミリーだ、さぞかし貯め込んでいやがるんだろうしなあ!」 「……愚かな連中め……!」 誘拐犯と睨み合い、重苦しい空気が流れる。相手は三人、対してこちらはひとりだ。ピエトロの米神を嫌な汗が流れ落ちる。 せめて、一瞬でもこの膠着状態を打破できれば――。 そんなピエトロの思考が伝わったのかは定かではないが、誘拐犯に抱きすくめられていたエステルが束の間ぴたりと泣くのをやめ、むぅぅ……と眉間に皺を寄せる。 そして次の瞬間には大きく口を開けたかと思うと、 「ぎゃっ!」 思い切り、男の腕に噛みついていた。 まさか、年端も行かない少女に反撃されるとは思いもよらなかった男が奇をてらわれ、悲鳴を上げる。 「このガキッ!」 激高した男がエステルの右頬を張る。エステルは小さく悲鳴を上げて倒れた。 「エステル!!」 妹が作ってくれた千載一遇の好機、これを逃す手はない。首魁の男へ向けて素早く拳銃を乱射すると、男は小さく呻き声を上げて仰向けに崩れ落ちた。 すかさずルカの薫陶を受けた挙動で駆け出し、残りのふたりのうち片方に思い切り肩からぶつかって、倒れた頭へ至近距離からの銃弾を一発。次いで仲間が斃れたことに怯んでいる最後のひとりへマガジン内のありったけの銃弾を叩き込んでやると、誘拐犯は上半身のあちこちから血飛沫をあげて絶命した。 「ぴえとろぉーっ!」 「エステル……!」 駆け寄ってきたエステルが思い切り抱き着いてくる。ピエトロも残弾のなくなった拳銃を放り捨て、片膝立ちでエステルを抱き留めて無事を確認する。 結果的にエステルに助けられた形だ、エステルが首魁に噛みつかなければ、不利な状況を打開することは不可能だった。 「エステル、怪我はない? よかった……」 今になって恐怖がぶり返してきたのか、わんわんと声をあげて泣くエステルをぎゅっと強く抱き締める。 危ういところだったが、主から預かった大切な妹を何とか守り通すことができた。随分と時間を食ってしまった、負傷したアッティーリオのことも心配だ。早くサービスエリアまで戻らなければならない。 しかし。 不意に背後から感じた殺気に、ピエトロは咄嗟にエステルを抱きすくめるとその場から素早く飛び退いた。 そして、銃声。今しがた兄妹の立っていた地面に弾痕が刻まれる。 見れば、最初にピエトロの撃った銃弾を浴びたはずの首魁の男が左肩から血を流し、右手に拳銃を持って立っていた。 「ふざけやがって……このクソガキどもが……!」 どうやら殺しそこなったらしい。確かに他のふたりと違い、ピエトロは首魁の男が仰向けに倒れたところまでは確認したが、息の根が止まったかどうかまでは確認しなかった。 男は仲間を殺され、自身も手傷を負ったこと、そして子どもに反撃を許したことに対して憎悪と憤怒を漲らせている。 「大人しくするなら生かしといてやろうかと思ったが、舐めやがって……! フェルネット・ファミリーのガキだろうが構わねぇ、ブッ殺してやる!」 「む……」 「てめえらの首は箱詰めにして親父の許に送り付けてやるよ。大切な一人娘をブッ殺されたとなりゃ、武闘派で知られたゴッドファーザーもさぞかし悔しがるだろうぜ!」 此方は唯一の武器であった拳銃の弾を撃ち尽くし、放り捨ててしまった。ただ抱き合うしかない兄妹の姿に自身の優位を確信し、男が嗤う。 だが、この場で笑ったのは誘拐犯の男だけではなかった。 「……ふ」 ピエトロもまた、エステルをしっかりと抱きしめながら口角に笑みを浮かべる。 男は激高した。 「てめえ、なに笑ってやがる!」 「僕たちをブッ殺す? ボスのところへ首を送り付けるだって? そんなことが、お前のようなチンピラ以下のクズに出来ると本当に思っているのか?」 くくッ、とピエトロは男を挑発するようにせせら笑う。 「無理だな。お前には殺せない……命には軽重がある。お前のような人間が奪うには、僕とエステルの命は価値がありすぎる」 「うるせえ! 何が価値だ、そんならお望み通りにブッ殺してやる!」 「……いいや、もう無理だ。なぜなら……何も持たず生まれ、そして今何も成さずに死んでゆくお前と違って――」 ピエトロが笑みを深める。と、モーテルに面した田舎道に次々と厳つい黒塗りのリムジンが現れ、モーテルの周囲を取り囲んだ。 更に、中から黒服に身を包んだマフィオーソたちが手に手に銃を持って下りてくる。 言うまでもなくフェルネット・ファミリーの構成員達だ。ルカは万一の場合に備えて部下に命じ、ピエトロが屋敷を出発したときから付かず離れずの距離でリムジンの警護をさせていたのだ。加えてエステルの肩から提げているポーチの中にはGPSが入っており、その居場所も逐一モニターされていた。 ピエトロは事態を把握した護衛が自分たちのところへ到着するまでの間、時間稼ぎをしていれば良かったのだ。そして、その役目は完全に達成された。 マフィオーソたちが男へ一斉に銃口を突き出す。エステルを抱きしめたままゆっくり立ち上がると、ピエトロは絶望的な表情を浮かべている男を見遣り、 「――僕とエステルには、神の恩寵があるのだから」 と、言った。 ドライブを終えて数日後、ピエトロは主人であるルカの執務室に呼ばれた。 「アクア―リオ・セントラーレを買収することにした」 大きな執務机越しにいつも通り無表情で椅子に腰掛けている主が、やにわに切り出す。 「アクア―リオ・セントラーレ……? あの水族館ですか? 以前エステルと遊びに行った……」 「そうだ」 ピエトロが訊き返すと、主は頷いた。 アクア―リオ・セントラーレはこの街の港湾地区にある巨大な水族館である。六メートルの巨大水槽の他、海獣のショーなども人気を博しており、ファミリー層のレジャーからカップルのデートスポットまで幅広い用途に使われる人気の施設だ。 自分とエステルもかつてルカに連れられ、遊びに行ったことがある。シロイルカのショーがたいそう気に入ったエステルが、体長三メートルほどもあるシロイルカを連れて帰りたい、屋敷で飼いたいと駄々を捏ね、大いに手を焼いたものだ。 「エステルが気に入っていただろう。先日のこともある、やはり遠出をさせるよりは近場で遊ばせた方が安全だ。それに湾岸道路建設の兼ね合いもあり、コネクションの手中に収めるのが得策と判断した」 「は……」 無聊を慰めるつもりで遠距離のドライブに送り出したら、誘拐犯に狙われた。同じ過ちを繰り返さないためには、目の届く街の周辺の施設で遊ばせておいた方がいいという親心だろうか。 加えて、湾岸道路が完成すればフェルネットの王国は今にも増して莫大な富を得ることができるようになる。 そのために、基点となる港湾部の主要な施設はすべてフェルネットの所有物にしてしまおうとの算段であろう。それにしても、計画の一部とはいえ娘のために水族館を丸ごと手に入れようとは、桁外れにスケールの大きな話である。 と、思ったのだが。 「オーナーはお前だ、ピエトロ」 「えっ?」 突然の指名に、ピエトロは思わず頓狂な声を上げてしまった。 「僕が? アクア―リオ・セントラーレのオーナー……?」 「そうだ。経営母体の代表取締役に就任して貰う……と言っても名義上のものだ、実際の運営は不動産部門の下部組織が行う。お前は何もしなくていい、従来通りだ。記念の式典などには顔を出す必要があるだろうが、年に数回のことだ」 ルカの説明を黙して聞く。自分は完全な名前だけのお飾りオーナーで、業務など何もないのだという。 「承知致しました」 慇懃に会釈する。主の決めたことだ、最初からそうするつもりで遥か以前から根回しを行い、あとはもう調印だけ――といったところまで段取りを整えているのだろう。元々主命とあらばピエトロに否やはない、やれと言われれば受けるだけであるが、それにしても突然水族館のオーナーをやれという主の意図がいまいちよく分からない。 しかし―― 「お前がオーナーをする水族館の経営母体は、元官民共同出資の第三セクターだ。つまり政府とも繋がりのある“白い”会社ということになる」 ルカが再度口を開く。 「……お前が欲しがっていた、あの車の購入審査も通るだろう」 「あ……!」 そこまで言われて、ピエトロはやっと自分を水族館のオーナーに推したルカの真意を察した。 昨年のモーターショーの折、ピエトロがブガッティ・ヴェイロンを食い入るように見詰めていたのを、ルカは今もなお覚えていたのだ。 あのときは、新米マフィオーソので裏社会の住人である自分には手に入れる資格がないと折角の申し出を断ってしまった。が、水族館のオーナーならば話は別だ。どこからどう見てもホワイトな肩書は、審査にはうってつけだろう。 先日のドライブで見事エステルを誘拐犯から守り切った、そのご褒美――ということだろうか? 偶々参加したモーターショーでの、ごく短く他愛ない遣り取り。 それを神と敬い慕う主が覚えていてくれたこと、そして願いの実現のために手回しをしてくれたことが嬉しい。 「ありがとうございます、ボス……! ピエトロ・ベルッチ、謹んで拝命いたします!」 ピエトロが嬉しそうに笑うと、ルカもまたほんの微かではあるが、双眸を細めて応えた。 「また、レディ・ヴェイロンといちゃいちゃしてる」 そして、現在。ピエトロが貴重な休日を費やして屋敷のガレージ前で愛車ヴェイロンの洗車をしていると、様子を見に来たエステルが呆れ顔でそう言ってきた。 「最近は構ってやれていなかったからな。誰かさんと一緒で、放っておくとすぐに機嫌を損ねてしまう。いざというときに臍を曲げてしまわないよう、メンテナンスは怠らないようにしなくては」 燦々と降り注ぐ日差しの下でジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖を肘まで捲ってゴムホースとブラシを手に振り返る。 屋敷の大きなガレージにはヴェイロンの他に数台のリムジン、ハマー等が収納されている。そういった車両はもっぱら部下たちが洗車をしていたが、ヴェイロンの手入れだけはピエトロが手ずから行い、他人には絶対に任せようとしない。 そうして念入りに状態をチェックし、オイルを新品に交換し、窓もボディもタイヤに至るまでピカピカに磨き上げると、一日があっという間に終わってしまうのだ。 「誰かさんって誰のことかしら。もう……ピエトロのばかっ」 兄が自分そっちのけで愛車ばかり構っている様子に、エステルが不機嫌そうに唇を尖らせる。 「そう怒るな、もう少しで終わる。……うん、今日は格別調子がいいらしい」 妹を宥めながら運転席に乗り込み、シートに座る。最後にエンジンをかけて音を確認すると、ピエトロは満足げに頷いた。 車から降り、車体の周りに散らかしたままの工具を片付ける。屋敷の中で手と顔を洗い、腕捲りしていたシャツを直してジャケットに袖を通す。 やっと自分が構って貰える番になったかと、エステルが喜色を湛える。 「終わった? それじゃあ――」 「いや、まだ最後の確認がある」 「えぇ……?」 エステルはまだ何かあるのか、と不満も露わに眉を顰めた。 そんな妹の反応をよそに、ピエトロは助手席側へ回るとドアを開く。 「何してる、早く乗らないと置いていくぞ」 「……?」 最後の確認があるんじゃないのか、とエステルが怪訝な表情を浮かべる。 「試運転と、乗り心地の確認。行きたくないか?」 「……行きたい!」 表情がころころと変わる。機嫌の悪そうな様子も一転、エステルは嬉しそうに助手席に乗り込んだ。ドアを閉め、ピエトロも反対側へ回って運転席に乗り込む。 「近場でいいなら、好きなところへ連れて行ってやる。どこかリクエストは?」 「じゃあ、セントラル・スクエアのモンテ・ドラートに連れてって! サンドラのオフィスで食べたとき、あそこのケーキがすっごく美味しかったから! また食べたぁい!」 「了解、レディ」 妹の食い気に微笑みながら手短に応え、ギアをドライブに入れる。ハンドルを握ってステアリングを切ると、車は滑るように移動を開始した。 子どもの頃に憧れた夢のハイパーカーが、今は自分の手の中にある。 それ自体例えようもない幸福ではあるけれど、それでも。妹のことは決して疎かにはしない。 第一この車を欲しいと望んだのも、元はと言えばエステルと一緒にこんな車でドライブができたらどんなにか楽しいだろう、と思ってのことだったのだ。 そして、その夢もまた叶えられている。 掛け替えのない大切な、愛しい妹を隣に愛車を駆る。その幸福を噛み締めながら、ピエトロはぐっとアクセルを踏み込んだ。 〈了〉
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E・HERO バーストレディ 通常モンスター 星3/炎属性/戦士族/攻1200/守 800 下級モンスター 戦士族 炎属性 E・HERO 関連カード E-HERO インフェルノ・ウィング(アニメ) E-HERO インフェルノ・ウィング(OCG) E-HERO ヘル・スナイパー(アニメ) E-HERO ヘル・スナイパー(OCG) E・HERO エリクシーラー(アニメ) E・HERO エリクシーラー(OCG) E・HERO スチーム・ヒーラー(アニメ) E・HERO スチーム・ヒーラー(OCG) E・HERO フェニックスガイ(アニメ) E・HERO フェニックスガイ(OCG) E・HERO フレイム・ウィングマン E・HERO フレイム・ウィングマン(アニメ) E・HERO フレイム・ウィングマン(OCG) E・HERO ランパートガンナー(アニメ) E・HERO ランパートガンナー(OCG) バースト・インパクト(アニメ) バースト・リターン(OCG)
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【北軍のアサシン】 『こんにちは、マスター。私はソフィア・ペロフスカヤ。 これでも爆弾の扱いは得意なんですよ』 クラス:アサシン マスター:梅傾奇 真名:ソフィア・ペロフスカヤ 性別:女 属性:秩序・悪 ステータス:筋力C 耐久C 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具A クラス別スキル:気配遮断B 固有スキル: 【爆弾製造:A】 威力から起爆条件まで様々な爆弾を製造する事が出来る。 遠隔操作で起爆する場合は爆弾と自身を魔力の導火線で結んでおかなければならず、 その魔力の導火線はサーヴァントや魔術師ならば目視可能。 宝具: 【愛すべき民の為の爆殺(キバリチチ・グラナータ)】 迫害される民たちを憂い立ち上がったアサシンとその同胞が起こした爆弾による暗殺の宝具化。 手投げ式の爆弾を投擲するだけだがアサシンが投擲した爆弾が何かに触れるまで爆弾自体を視認・感知する事が出来ない。 【解説】 迫害される人々の姿を悲しみ、同胞たちと立ち上がった心優しきお嬢様。 看護婦をしていた時期もあるためある程度の治療も可能。 聖杯への望みは『愛する民たちの永遠の平和』。
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アサシン 《出典作:Fate/unlimited codes、タイガーころしあむシリーズ》 VS. 対暁武蔵【月華の剣士シリーズ:SNK】 「…何故だろうかな。そなたなぞ露程も知らんのに、勝負に勝ったのが、まるで積年の雪辱でも晴らしたか如く小気味良いのは…どうした事だ…?」 ※投稿・デスタムーア 対一条あかり【月華の剣士シリーズ:SNK】 「やれやれ百鬼夜行の行列とは…。摩訶不思議にして奇奇怪怪。夢だの現だのに拘る方が阿呆らしくなってくるわ」 ※投稿・デスタムーア 対嘉神慎之介(覚醒後)【月華の剣士:SNK】 「地獄門とな…?門ならばそなたを通す訳にはゆかぬ。開いているなら閉めるまでよ」 ※投稿・デスタムーア 対ガルフォード【サムスピシリーズ:SNK】 「侍の魂、故に『サムライスピリッツ』か!異人殿は愉快な事を申すな。いや失敬、陽炎の如きこの身にも、そのようなものが寸分でもあればな…と思うてな」 ※投稿・デスタムーア 対クリムゾン・ヴァイパー【ストⅣシリーズ:CAPCOM】 「そなたの様に人を見透かした雌狐は好かんな」 ※投稿・デスタムーア 対豪鬼【ストシリーズ:CAPCOM】 「佐々木小次郎などと呼ばれてはいるが、桃太郎になった覚えはないぞ。いやしかし、犬猿雉が居らずとも鬼退治もなんとかなるものよな」 ※投稿・デスタムーア 対四条雛子【KOFシリーズ:SNK】 「…呆けた性格にはとやかくは申さぬが刻限にだけは遅れてくれるな。私はどうにも時間に疎い輩には我慢ならんのだ」 ※投稿・デスタムーア 対シャルロット【サムスピシリーズ:SNK】 「異国の女剣士よ。日本の侍を相手取るのなど初めてであろう?なぬ…!?厭きる程に斬り結んだとな……。そ、そなた一体どのような人生を送ってきたのだ…?」 ※投稿・デスタムーア 対ジャンヌ・ダルク【ワーヒーシリーズ:SNK(ADK)】 「見えぬ剣にも難儀したが今度は火鳥を飛ばす魔剣か…いやはや西洋の女剣士はみな妖術師さながらよな」 ※投稿・デスタムーア 対神人・豪鬼【カプエス2:CAPCOM】 「げに凄まじいもののふであった…。かような猛者と手合わせ叶おうとは、時の果てまで迷い込んできた甲斐も遭ったというもの…しかしながら些か以上に疲れすぎた…」 ※投稿・デスタムーア 対橘右京【サムスピシリーズ:SNK】 「これは奇遇な。様相こそまるで違うも『燕返し』なる技の使い手とは!…存外『佐々木小次郎』とは、そなたを元にどこぞの物書きが創作したのやもな…」 ※投稿・デスタムーア 対ダン・ヒビキ【ストシリーズ:CAPCOM】 「…いつまでそうしておる。安心しろ峰討ちだ。…しかし肋骨は全て圧し折り臓物もいくらかは潰していたか…?…冗談よ。いちいち愉快な動作を取るな」 ※投稿・デスタムーア 対徳川慶寅【サムスピシリーズ:SNK】 「見れば、風流を解する歌人と見る。次が合るなら斬り合い等より、月を肴にそなたの半生でも聞きたいものよ」 ※投稿・デスタムーア 対覇王丸【サムスピシリーズ:SNK】 「そなたに恨みなど無いし、聖杯などにも興味なし。されど此処をすんなり通す訳にはゆかぬな…理由だと?野暮を申すな、刀に訊けば良かろう?」 ※投稿・デスタムーア 対服部半蔵【ワーヒーシリーズ:SNK(ADK)】 「『ワールドヒーローズ』とな?…様々な時代の英雄が一同に会する此度の合戦であろう?ふむ、聖杯戦争も随分ハイカラな呼び名になったものよな」 ※投稿・デスタムーア 対バルログ【ストシリーズ:CAPCOM】 「我が剣先からは燕ですらも逃れ得ぬ。如何に跳ね回ろうが、翼も無きそなたを捉えるなぞ造作も無い」 ※投稿・デスタムーア 対ブランカ【ストシリーズ:CAPCOM】 「げに珍妙なる獣よな。…何やら興が乗ってきたな。真似してみるか…。…アウアウアーッ!!」 ※投稿・デスタムーア 対本多忠勝【戦国BASARAシリーズ:CAPCOM】 「いやはや…斬り放題の鈍牛かと高を括ったが、いくら斬られても効かぬと有ればさもありなん…これ以上は付き合えんな。刀も心も刃毀れしてしまう」 ※投稿・デスタムーア 対八神庵【KOFシリーズ:SNK】 「此処が何処で今が何時かも終ぞ知らぬ…。挙句に陽炎さながらのこの身…。だがま、此処も月だけは美しい…。ならば今はそれで由とするか」 ※投稿・デスタムーア 対リムルル【サムスピシリーズ:SNK】 「…何故にそなたを斬るか…?…言うても解からんだろうが令呪に縛られた私に是非も無い。恨むのなら恨むが良い、常世で遭ったら土下座くらいならしてやろう」 ※投稿・デスタムーア 対リョウ・サカザキ【龍虎の拳シリーズ:SNK】 「武器を持った者が相手では奥義に頼らざるを得ぬか?…覇王なにやらとか偉そうに言っていたな。この負け戦でも披露していたのかそれは?」 ※投稿・デスタムーア 対王虎【サムスピシリーズ:SNK】 「刀の扱いが見るに耐えんな…。そなたには刀の嘆きが聞えんのか?「まっとうに使ってくれさえすれば、斬れぬモノなど何も無い」…そう言うているぞ」 ※投稿・デスタムーア &.
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あらしのあとのれでぃ・ぐれい【登録タグ あ おっホイP 初音ミク 曲】 作詞:おっホイP 作曲:おっホイP 編曲:おっホイP 唄:初音ミク 曲紹介 おっホイP の92作目。 きれいめ癒し系です。ゆっくりしていってね。「レディ・グレイ」は紅茶の銘柄です。アール・グレイをもっと華やかにした良い香りで私のお気に入り。(作者コメ転載) 歌詞 恋の嵐の真ん中で 何も見えなくなっていたね いつの間に優しさ なくしてたのかな 壊れてゆくって気付いても なにもせず立ちつくしてたね ふたりとも弱くて身勝手で 今 退屈だけど 静かな日々が始まる レディ・グレイのリーフひらく 香りの粒が部屋を満たした 嵐のあとの空は いつもより透き通ってるんだな ひさしぶりにゆっくりと眠れたよ 空っぽな胸に 華やかな香りが満ちてゆく 今日は何もしないで 流れる時間を味わおう レースのカーテンふわり 光の粒が部屋を満たした また恋をすればいい そうだね でももう少しだけ 今はまだ このままで レディ・グレイのリーフひらく 香りの粒が部屋を満たした 今私がいちばん大切にしたいひととき また恋ができるなら もういちどあのひとと恋したい 大人になったふたりで もういちど逢いたいと願うの コメント 追加乙です!!(`・ω・*) -- はにわ (2012-07-06 16 33 16) 名前 コメント
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ここは吉良邸宅。 見れば庭で体操をしている時代錯誤な服装の眉目秀麗な男が一人。 彼を知らない者が見れば、彼を役者か何かと勘違いしてしまうだろう。 しかし、彼は普通の人間ではない。 「ん~今日はいい天気でござるな」 彼の名は佐々木小次郎。膨大な魔力を持つ主婦によって召喚されたアサシンのサーヴァントである。 「アサシン! アサシン! いないの!」 キャスターが自分を呼ぶ声が聞こえる。 「庭でござるよ」 アサシンは答えた。 「おはようでござる。キャスター殿。何か用であろうか?」 「私がさっき考えたギャグを聞きなさい」 「またTVの影響でござるか? 大体ですね、キャスター殿には聖杯戦争を勝ち抜くやる気が見ら」 キャスターの体に刻印された令呪が赤く光る。 「聞きなさい」 「聞きましょう」 あれ? 拙者は今なんて言おうとしたんだっけ…… 「いい? 一度しか言わないからよく聞きなさいよ。 アサシンが朝死んだ」 「……」 「つーギャグ…どう?」 キャスターが真剣な眼差しで見つめてくる。 ここは笑った方がいいのであろうな…… 「……ん~~!! なかなか愉快でござる。かなり大爆笑!」 「でしょ? 後でもっとジワっと来るのよ。気に入ったからってパクらないでよね」 盗むつもりなど毛頭ないが、この女狐の機嫌を損ねると、自分は消されてしまうので合わせる。 「ははは、それは残念至極でござる。後でアヌビスにも聞かせてやろうと思いましたのに」 「私も吉良様にご披露しようと思ったの。でもね、このギャグには一つだけ足りないものがあるのよ」 「一つだけ…? 何でござるか?」 嫌な予感がした。 「『リアリティ』よ。ギャグはリアリティこそがギャグに生命を吹き込むエネルギーであり リアリティこそがエンターテイメントなのよ」 「どこぞの漫画家と同じような事を言いますな……って何故呪文を唱えてうわなにをなされるやめ」 小次郎がそれ以上喋ることはもう無かった。 さよなら小次郎! また会う日まで! P.S その日、世界の時間が巻き戻った。
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モバイル・レディ ◆2kGkudiwr6 先ほど自ら破壊した寸胴の小型自律行動メカには目も繰れず、先ほど発射した武器を付け直す。 乾坤圏というこの武器、予想以上に体力を消耗する。威力こそあるが乱用は避けるべきだろう。 一応、回復する手立てはある。先ほど破壊したメカの所持品であったエリクサーと呼ばれる薬品だ。 説明によれば、これは体力と魔力ともに全快する薬品だと言う。しかし、これに頼るのは危険が過ぎる。 一回で全回復できるが、それが一本しかない。つまり、回復は一回しかできない。 魔力が全快のときに、傷の回復のため飲むのはベストかベターか悪手か。出来うる限りタイミングを計らねばならない。 その点から考えても、乾坤圏はここぞという場面でのみ使うべきである。先ほどのように。 幸い、補助の武器はある。倒した相手の支給品の一つには質量兵器があった。 文字通りの拳銃だがサイボーグ対策のために設置された機関が使用する特殊仕様であり、 多少の装甲は撃ち抜ける程度の威力だと言う。補助には問題ない。 また、生体センサーという有用なアイテム――こちらは元々持っていたものだが――もある。 所持者以外の生体が接近した場合、振動して知らせるものだ。不意打ちはある程度これで防げるだろう。 ただ、先ほど破壊したメカには反応していなかった。生体でなければ反応しない、ということだ。 結論。有用な装備・道具に恵まれてはいるが、確実な戦果を期待できるものはない。 任務続行に関しては今後も警戒を払って行うべきだろう。 私――タイプ・ゼロはそう結論し、歩き出した。 ■ ともかく、オイラは武美とか言う女と組む事になった。 コイツは戦えないそうだし、見る感じ普通の女と変わんない以上オイラが頑張るしかないだろ。 ……だから、もしコイツがいい武器を持っていたら是非とも譲ってほしいもんだ。暴れたいし。 ちなみに、オイラに支給されたもので他に武器と呼べるものはウィルナイフなるナイフ一本。 なんでも切れる剣がある以上いらないけど……まぁ、予備にはなるか。 「武美はなんか武器ねえのか?」 「ええっと……」 言われてPDAをいじり出す武美。どうやらまだ確認してなかったらしい。 ……土壇場慣れしてねえな、こいつ。 「なになに、るがーみにじゅうよん? ……セミオートライフルだって」 「ライフルねぇ……悪くはねえんだけどなー。 やっぱオイラには連射して弾をばら撒く方があってるぜ」 オイラとしては一気に広範囲をぶっ飛ばせる銃の方がいい。 ガトリングがあるのにわざわざ普通のライフルを持つ必要があるものかと言えば、疑問だ。 それに、アポロマグナムとやらは二十二口径にも関わらず戦車をぶち抜ける威力らしい。 わざわざライフルも持つ必要はねえだろ。 その後も色々と聞いてはみたが、結局オイラの好みに合うようなものはなかった。ちっ。 とりあえず武美の希望で市街地(つまり西のコロニー)へと歩き出すことになったものの、 黙ってるのもあれなので互いの生い立ちとかそういったことを話す事になった。 武美から先に話すことになったが、コイツは自分を作ったとこから逃げ出して普通に暮らしているらしい。 もっとも、こっそり自分の能力を使って金稼ぎしてるらしいけど。 株で儲けたりクイズでカンニングしたりしてる辺りちゃっかりしてやがる。 ネットでロボットが暴れるのを観測したって記録を見つけたこともあるとか。それ、なんてガン○ム? ……まあ、オイラたちがやってたことを考えればそんなのあっても不思議じゃない。 案外、オイラ達がやってた騒ぎもコイツに知られてたりするのか? 「ま、せっかくおかしな力を持っちまったんだからそれを使って楽しく暮らすのは悪くないだろ?」 「へへ、ありがと。 そういうクロちゃんはどんな風に使ってるの?」 「そりゃあ、街中でガトリングぶっ放したりとか。生身の頃から銃は撃ってたけど」 「…………」 呆れられたのは気のせい……じゃねえな。 さて、流れとしてはそろそろオイラの番なわけだけど……どっから話すか? そう思った、矢先だった。 オイラにとっては聴きなれた音が鳴って、地面が抉れた。 「……え?」 「隠れろ!」 「わ、わわ!!」 呆然としてた武美を蹴飛ばして木の影に隠れさせる。 二発目着弾。幸いなことにこっちも外れた。オイラもすぐさま同じ木の後ろに隠れる。 「なに、なになに!?」 「敵だろ、どう見ても!」 「猫なのに気付かなかったの!?」 「夜目は利かないんだよ!」 文句を言う武美に怒鳴り返しながら、アポロマグナムを構えつつ銃声の方を確認。 相手は撃つのはへたっぴらしい。らしいが……夜目は恐ろしく効いている。 オイラには相手がどこにいるか全然見えねえのに、相手はオイラ達がいる場所を完全に把握して撃ってやがる。 オマケに、銃声からすれば相手の得物は拳銃らしいのに。 「うおっ!」 「きゃあ!?」 背にしていた木があっさり砕けやがった。普通の拳銃じゃねえ。 幸いなことは、射程は大して無さそうなこと。実際弾も逸れまくってる。その辺は普通の拳銃らしい。 だが生憎、夜目が利かないオイラじゃここから狙う……てか、相手を見つけるのはムリ。と、なれば…… 「武美、遠くに離れてろ。邪魔だ」 「え……クロちゃんは?」 「決まってんだろ? 暴れに行くのさ!」 ニヤリと笑みを浮かべて、一気に飛び出した。 見えないなら、近づいて相手を見つければいいだけの話。 それに、相手が銃を撃ったこともないようなド素人なのはとっくに分かってる。 なら、オイラが相手を見つければそれで終わり。銃の腕でも威力でも負ける気はしない。 突っ走るオイラは相手には丸見えなんだろう。乱射してきたが……ほとんど当たってない。やっぱ素人だな。 が、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。右腕に一発当たったのに気付いて、顔を顰めた。 「ったく、効くぜ……」 予想通り、普通の拳銃じゃなかった。少し装甲がへこんでやがる。さすがに喰らい続けるのはお断りだ。 けど、それだけの成果はあった。おぼろげに相手の輪郭が見え始めて…… 「ってオイ、待てコラ!」 相手はあっさり逃げ出した。しかも予想以上に速い。足につけてる変なパーツのせいか? 張り合いがねえなぁ……そう呟いてから気付いた。逃げるには足音のする方向がおかしい。 遠ざかるというよりは、まるで迂回しているような。 そのまま僅かに響き続ける足音……その方向に気付いてぞっとした。 「……んのヤロー!」 慌てて追いかける。遮蔽物を使って身を隠す、なんて余裕はない。 足音が聞こえる方向は横へと変わっていた。相手は、オイラを無視して武美へと向けて走ってやがった。 ……これも、狙い通りだったんだろう。 待ってましたと言わんばかりに相手が拳銃を乱射してくる。とっさに避けたが反撃する余裕は無い。 そうしてなんとか姿勢を直した時には、相手はまた夜闇に隠れている。 「ったく、これだから一緒に行くのは嫌だったんだ!」 吐き捨てる。 相手の戦い方はどこまでも合理的で冷静で、だからこそ腹が立つ。 オイラが狙いに乗って不利な戦い方をしなければ、武美を狙うってわけだ。 相手は武美どころかオイラより足が速い。夜目も利く。完全にあっちのペースだ。 ついでにいえば、後ろを気にしながら戦うこと自体性に合わねえ。好き勝手暴れたい。 せっかく三連射できる武器だってのにまだ一発も撃ってねえぞ畜生。 アポロマグナムとガトリングを連射してそこらへんの木を全部無くすことも考えたけど、 どっちみち夜目が利かない以上相手を見つけられない。オイラが隠れられなくなるだけだ。 ……そうこうしている間にも相手は走り出してやがる。多分狙いは同じ。 ごていねいに足音を響かせているのは脅迫ってことか。 相手の速さを考えれば、音だけ頼りにして適当に撃っても当たるとは思えない。 いくら威力が高くても三連射が限界の二十二口径であることは変わらない。弾をばら撒ける範囲が狭すぎる。 ガトリングはその点なかなかだが……もっとわかりやすいやり方がある。 ――要するに。この辺全部明るくしちまえばいい。 走り出す。 再び相手が乱射してきた、が。オイラは回避行動を取らず、後ろを向いた。 「こなくそっ!」 「…………!」 そのまま銃弾を喰らいながらも、尻尾ミサイルをぶちかます! 狙い通り盛大に爆発。放っておくと火事になりそうだが無視だ。というか、火事になっちまえ。 爆発はそれほど相手にダメージを与えなかったらしいが、それもいい。 一瞬だが爆炎に照らされた青色の髪の女をオイラの目は見逃さない! すぐに暗くなっちまったが構うもんか、適当にアタリをつけてアポロマグナムを三連射。 同時に全力で走り出して……やっと見つけたぜ。 見る限りマグナムは当たらなかったみてえだが牽制にはなったらしい、 ようやく顔を拝むことになった相手は回避行動のために体勢を崩し、銃を構えていない。 ならやることなんて決まってる。アポロマグナムをぶちこもうとして…… 「いっ!?」 いきなり相手が腕輪を撃ち出した。しかもオイラのロケットパンチとは威力が違うってレベルじゃねーぞ! 幸い少し右腕を掠めた程度だ、大した怪我はない。 ……いや、オイラ自体は無事だったけれど。つけていたアポロマグナムが取れた。すぽんと。 そのまま遠くに落ちるアポロマグナムを見て、ここはボンボンじゃないからか?なんて考えが一瞬掠める。 が、今はそんなことを気にしている場合じゃない。のんびりしていたら追撃されて終わりだ。 回収している余裕は無い。もう一つの武器、なんでも切れる剣を取り出そうとして―― 「な、ない!?」 腹に入れた手がスカっと空を切った。あんのクソハゲ、盗んでやがった……! ウィルナイフを入れておけばよかったと思うが後の祭り。 相手の女が他の腕輪を撃ち出そうとして…… 今までとは違う、銃声が響いた。 ■ 木を背後の支えにし、立膝姿勢をとる。変形膝射の形。 森林、夜闇。この条件ならばこの距離でもそうそう見つからないものだが、高低差がない。 さらに相手の視力が――自分のように――異常ではない保証もない。 すぐに木の影に隠れられるような形を取るほうがベストだろう。 できるだけ木や骨に上手く体重を掛けられる姿勢を探りながら、銃を構える。 スコープなしのライフルで狙撃するなど通常行うことではない。 しかしこれ以上の狙撃向きな武器はここにない。土嚢すらない。 そもそもこれは自分のものではないのだから、高望みすべきではないだろう。 「ねえ……大丈夫なの? クロちゃんに当てたりとか」 「黙っていろ」 脇にいるモノも観測手の役を成すには無能すぎる、と断言できる。これは高望みしても罰は当たるまい。 狙撃を行う際に雑音は邪魔でしかない。それこそ、狙撃の際は心臓の音でさえ雑音になりうるのだ。 全身全霊をスコープ(もっともルガーにスコープはないので、この場合照星になる)に集中し、 ターゲットとスコープの十字(ルガーにおいては照門)の一致を待ち、維持する。それが基本。 通信などそういった雑音を処理してくれる観測手は優秀だが、それどころか雑音を作るような観測手はお断りだ。 ……もっとも。自分を殺す術にならば長けている。 照門と照星を一致させる。そして支点を大事にしつつ銃を微妙に動かし、相手の姿が一致するのを待つ。 距離はかろうじて頭が判別できる程度。紫、あるいは青色の髪が視認できるだけだ。 夜の暗さを考えれば、距離は恐らく200m前後。ヤードに直せば約220。 今が昼で尚且つ静止目標ならば、それこそ十発撃って十回当てる自信がある。 しかしこの夜闇、そして森林は実際の距離以上に狙撃手の発見及び狙撃の成功を難しいものとする。 更に、相手である人間(である保証はないが)は通常のそれより遥かに機動性がある。 しかも小刻みに多方向へ動いている以上、クレー射撃とはレベルが違う。当てるのは間違いなく難しい。 しかし、プラス要因も相応にあるのも事実。 一つ、自分は通常の人間より遥かにいい視力をしている。特に動体視力は、銃弾を切り払えるほどに。 二つ、ここは宇宙空間の中の密閉コロニー。ゆえに、風に左右される心配が少ない。 三つ、クロなる猫型サイボーグは遠距離戦が得意ゆえか射撃戦を重視しあまり動かない。誤射の心配を減らしてくれる。 そして四つ―― 脳よりむしろ脊髄が命令を下した。 指が引き金の遊びを無くす。銃身から放たれた銃弾は――果たして、相手の腕を掠めただけだった。 致命傷どころか、腕を動かすことさえ仔細あるまい。 ――だが、失敗ではない。ベストではないが、ベターだ。 そのまま素早く木の影に隠れる。しかし……隠れる寸前、僅かに見えた相手の顔の動きを見て、オレは状況を察した。 「……位置を勘付かれたか」 「え、うそ!?」 脇にいるものはいちいち声を上げる。もっとも、彼女にはともかく自分にとって別段不思議なことではない。 この距離、夜闇でも容易く視認できる機能を持っているのだろう。現行技術でも可能なことだ。 しかし――オレにとっては予測どおりに、だが――向こうで戦闘が再開された。 「……でもこっち来る様子ないけど」 「当然だ。主目的は威嚇に過ぎん」 彼女の言葉に、短い言葉のみを返す。恐らく、相手は撤退を開始したはずだろう。 四つ目、無理に致命傷とする必要はない。 致命傷でなくとも、当てることで――隙さえあれば、容易く射殺できるのだと相手に思わせられる。 むしろ、遠くから狙われているということを示すことこそが本義なのだ。 警戒する対象を二つに増やすことになった相手は、前衛のみに集中することができなくなる。 撹乱・士気低下という狙撃手の主任務は十分に果たした。とはいえ、第二撃も準備しておく必要はあるだろうが。 「……よくわかんないけど、クロちゃんはもう大丈夫なの? 「戦闘力から考えれば、恐らく」 「よかった。ありがと、プロフェッショナルさん」 「……なんだ、それは」 「だってまだ名前聴いてないじゃん。いかにもって感じでしょ。 こう呼ばれるのが嫌だって言うんなら、名前教えて欲しいな。そうそう、あたしは武美」 不快ではないが嬉しくもない。 自分がプロフェッショナルとして任務を果たすのは当然であり、そうでなければ存在する意義がない。 相手は名前を名乗ったが、本名を知っている以上偽名を名乗られても意味はない。 顔を見た時点で、彼女の本当の名前は知識から呼び起こしている。 ……気配を感じ、予定を変更して追跡するにはあまり価値のないものだ。 もっとも、オレが興味を抱いたのはむしろ猫型サイボーグのほうだが。 ともかく、自分の名を名乗り返しておく。 「……灰原だ」 「灰原さんね、うんうん。それにしても、あっさり信用してくれたね。あたしとは初対面なのに」 「経歴から考えればお前が殺し合いに乗っている可能性は低いだろう、モバイルレディ」 脇にいる女性――脱走したアンドロイドのうちの一人――に、オレは平坦にそう告げた。 ■ 「……逃がしちまったか」 舌打ちした。 よく分かんねえが、途中で放たれた援護射撃はオイラへと放たれたものじゃねえ。 これ幸いと追撃をかけたが、相手も不利だと感じたらしい。数分近くかけて結局逃げられちまった。 まあ、アポロマグナムが遠くに落ちたせいでウィルナイフで戦うしかなかったのも原因だけど…… 誰もいなくなった森でしぶしぶアポロマグナムを回収しながら、周囲を警戒する。 狙撃した奴が武美じゃないことは確実だ。あいつにそれだけの腕があるとは思えねえ。 できるんならもっと早くそれだけの実力を発揮してる。明らかに他の奴の仕業だ。 もっとも、そんなことをしていたのは……結果から言えば無駄だった。 「やっほー! 無事だった、クロちゃん!」 この辺にいるのは、武美一人だけ。第三者の気配はない。 舌打ちしたものの、とりあえず問いただしてみる。 「それより、さっき狙撃した奴はどこにいったんだ?」 「え? な、なんのことだか……」 「……どう聞いても銃声はお前が来た方向からしたぞオイ」 「えっと、風来坊…… そう、灰原さん、あ、これ助けてくれた人ね、は風来坊みたいな人で! 一人で戦うって言ってたんだよ」 「いるわけねーだろそんな奴。少なくともオイラと顔を合わせるくらいするはずだ」 ウィルナイフを腹にしまいながら突っ込む。この顔は嘘を吐いてる顔だぜ、明らかに…… 「クロちゃんはそんな感じだったじゃん」 「…………」 痛いところを突かれた。確かにそうだ。 「さ、それよりここは危ないからどっかいこ! さっきの爆発で人が集まるかもしれないし!」 「…………」 歩き出す――言うまでもなく早足で――武美を見て、オイラも肩を竦めながら歩き出した。 要するにそこまでしてこっから離れるほど、灰原って奴とは一緒にいたくないと。 無事だったところを見る限り……武美の敵じゃないが決して一緒にいたくはない奴ってことか。 ……どんな奴なんだ? ■ 明らかにクロちゃんはあたしの言葉を信じてないけど、ともかくついてきてくれてる。 質問する様子も無い。だからそれでいい。早足で歩きながら、あたしはさっきの会話を思い出した。 ――それだけで、腹が立つ。 「問題は無い。お前が殺し合いに乗っている可能性は低いだろう、モバイルレディ」 「え?」 それを聞いた時、空気が凍ったように思えた。実際に凍ったのは、あたしの思考だけれど。 モバイルレディ。大神があたしに付けたコードネーム。 あたしは友子達みたいにテロリストやってるわけじゃないから、大神についても詳しく知らない。 知らないけど、大神があたしたちに対してとった行動くらいは大まかに知ってる。 そして、あたしをこの名で呼ぶ奴がどんな奴らかってことも。 ……つまり、こいつは大神の一員。それに本当の目的を知ってるくらい、中枢にいるレベルの。 まずい、と思った。確かライフル以外にも、支給品の中に何か武器があったはず。 けど、今から出して間に合うんだろうか……そもそも、あったところで勝てるの? そう混乱するあたしを無視して、平坦に言葉は続く。 「CCRのリーダーとして、お前に関してはある程度報告を受けている。 能力、用途、そしてテロ活動を行った様子が確認されていないこともだ。 サイボーグ同盟の一員ならともかく、逃げ出したお前を積極的に殺しにかかる必要はない。 帰ってから今更テロ活動を始めようなどと愚かな真似はしないだろう」 ……思考の方向を慌てて切り替えた。 それは、つまり。 「……ここでは任務とか考えるだけ無駄だから協力しようってこと?」 「多少の差異はあるが、肯定だ」 思わず、溜め息。 まあ、CCRと組むなんて色々と嫌だけど……言っていることはおかしなものじゃないと思う。 まず生きてなきゃなんにも出来ないんだから。少なくともこの時はそう思った。 あたしが納得したのを理解したのか……クロちゃん達の方向に注意を向けながら、灰原は自分のPDAを出した。 「オレのPDAにルガーのIDを登録してもらいたいのだが」 「え……ああうん、いいけど」 PDAをぴぴっといじって、灰原のPDAにライフルのIDを入力する。 CCRの人間と一緒にするものとは思えないほど、まっとうな行動だ。 多少警戒が緩んだからだろう。思わず、PDAを返しながら愚痴っていた。 ……今思えば、しなきゃよかった。しなきゃこいつにとっての当然を知らなくて、普通に行動できただろうから。 「……なんでわざわざ警戒されるような呼び方したわけ?」 「他に信用するに足る理由がないからだ。組んでいるということは理由としては弱い。 殺し合いをするものが組むという可能性は低いがないわけでもない。二人程度なら特にな。 危険人物が組む具体例としては、サイボーグ同盟の不良品どもを見れば分かる。 ならば、あらかじめ明かしておくのが無難だろう。潜入を疑われては困る」 ……多少ムカつくけど、間違ってはいない答えだ。 答えるために友子達をごく自然にバカにする必要があったようには思えないけれど。 「……あたしがサイボーグ同盟みたいな考え持ってるかもしれないから殺しておくか、とは思わなかったの?」 だから、思わず言ってしまった。ここが、分岐点――互いの根本的な違いが、明らかになる場所だった。 「主催者への対策として情報分野の能力は非常に重要だ。 代用品が存在する可能性は極めて高いとはいえ、保険は掛けておくべきだろう。 ハッキングの方法や道具……あるいは参加者が他に全くなければ詰む」 ……かなりムカつく言い草が聞こえたのは、幻聴じゃない。残念なことに。 反論する余裕も……いや、その言葉の意味を把握するより先に、CCRのリーダー殿はご丁寧にも続けてくれた。 「それに失敗作のお前を回収したところで、大神グループに大した利益はあるまい」 「…………!」 唇を噛む。 保険。失敗作。だから殺す必要はない。 こいつにとって、あたしのその存在はその程度でしかない。 しかも何よりムカついたのは、表情と声音だった。 どこまでも冷静。どこまでも冷静。どこまでも、日常通り。 コイツは馬鹿にしようと思って言ったんじゃない。いや、そっちの方ならまだ慣れてるからいい。 コイツにとって、サイボーグ同盟のみんなを見下すのは息をするくらいに当然のことで。 あたしが失敗作なのは、日が昇ることくらいに常識なんだ。 ――ああそうだ、分かってる。自分が失敗作だってことくらい。 ……けど、何の心の準備もなく。 他人から当然のようにそういわれて平気なほどに、あたしは強くなかった。 そして、何よりむかついたのは。 こいつはそんなあたしの思いを全く汲み取る様子もなく……表情一つ変えずに、向こうを見ていた。 「……猫型サイボーグが相手の撃退に成功したようだな。 紹介を頼みたいところだが」 「……どっか行って」 「む?」 「あんたとは組まないって、そう言ってるの!」 気がつけば、そう叫んでいた。 手が、声が震えている。 馬鹿げている。間違っている。そんな理屈を、感情が凌駕する。 ……だから、目の前にいる奴は理解できないって顔になる。 「……自らの能力の程度は理解しているだろうし、私達が組むことに関しても」 「耳悪いわけじゃないでしょっ……!!」 この時ばかりは、泣けないことに感謝した。 こんな状況で目が涙で滲んでたりしたら、情けないにもほどがある。 ……もっとも表情を見る限り、相手はあたしのことを情けない奴と思ったらしいけれど。 「寿命タイマーを仕込まれていながら大神に反逆しなかったことから察するに、 他の不良品どもよりまともに物事を考えているだろうと判断していたのだがな。 あの猫型サイボーグの戦闘力はなかなか惜しいものだが……まあいい。 互いに死んでいなかったならば再び巡り合うこともあるだろう。 ルガーの譲渡、感謝する」 そう冷たく告げて、灰原はどこかへと消えていった。 温かみなんてないどこまでも事務的な口調、どこまでも論理的な行動に、 僅かな――けれど確かな、見下した音色を込めて。 一つだけ、決めた。 ……生き残ってやる。絶対に。 ここから脱出するためのすごい功績を残して。 そうして胸を張って風来坊さんのところに帰ってやる――絶対に。 【E-7/一日目・黎明】 【クロ@サイボーグクロちゃん】 [状態]:装甲各所に軽い凹み [装備]:アポロマグナム@仮面ライダーSPIRITS、 ウィルナイフ@勇者王ガオガイガー(なんでも斬れる剣があった場所に収納) [道具]:支給品一式、ランダムアイテム1(武器ではない) [思考・状況] 基本思考:ハゲ(シグマ)をぶちのめす! その後剛を殴る。 1:とりあえず、ハゲ(シグマ)の居場所を探る。そして暴れる。 2:ミーと合流して、爆弾を何とかする。 3:とりあえず、今は武美を深く追求する気はない。 ※内臓ミサイルは装備されています。尻尾ミサイルは使用済み。 ※ガトリングやなんでも斬れる剣が没収されていることに気づきました。 ※参加時期は異世界編(五巻)終了後です 【広川武美@パワポケシリーズ】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式、ランダムアイテム1~2(クロ好みの武器はないが武器は最低一つある) [思考・状況] 基本思考:絶対に生き残り、ここから脱出する。 1:シグマの居場所を探る。そのため市街地に移動したい。 2:元の世界のあの人のところに戻って、残り少ない人生を謳歌する。 【F-6/一日目・黎明】 【灰原@パワポケシリーズ】 [状態]:健康 [装備]:リシュウの仕込み杖@スーパーロボット大戦シリーズ スタームルガーミニ14(残弾29)@現実 [道具]:支給品一式、ゆうしゃバッジ@クロノトリガー [思考・状況] 基本思考:シグマとその協力者達の捕獲、不可能であれば破壊して本社に帰還する。 未知の技術の情報収集、及び回収して大神に持ち帰る。 1:空港を目指し、情報を集める 2:使えそうな人材の確保、油断はしない 3:この戦場からの脱出 ※本編死亡後からの参戦です ※武美にあるのはせいぜい保険程度の価値だと思っていますが、クロはそれなりに高く評価しています。 【E-6 森林/一日目・黎明】 【ギンガ・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】左腕にかすり傷と切り傷、右腕に軽い火傷 疲労(大) 【装備】フットパーツ@ロックマンエックス、乾坤圏@封神演義 Glock 19(CCR仕様、弾数2/15)@パワプロクンポケット8、 予備マガジン4、生体センサー@メタルギアソリッド 【道具】支給品一式×2(ギンガ、王ドラ)、エリクサー@クロノトリガー、不明支給品0~1 【思考・状況】 基本思考:敵(ナンバーズ以外)の破壊 1、敵を探し、破壊する 【エリクサー@クロノトリガー】 スクウェアお馴染みのHP・MPを全回復するアイテム。一本だけ。 【Glock 19(CCR仕様)@パワプロクンポケット8】 弾数15発の自動拳銃。予備マガジンは五つ(だったが一つ消費)。形状などは一般的なものと変わらない。 ただしCCRの使用する火器はサイボーグを一発で撃ち抜ける威力を保持しており、 パワポケ世界の技術水準を考えても現実のそれより威力は高いと思われる。 【生体センサー@メタルギアソリッド】 敵兵が接近すると振動し、敵兵が近づくに連れて振動が強くなる。 【スタームルガーミニ14@現実】 セミオートライフル。弾数30発。 【ウィルナイフ@勇者王ガオガイガー】 サイボーグ化した凱が左腕に収納しているもの。 凱の意志次第で切れ味が変わる他、凱が感知できる特殊な電波を発信している。 時系列順で読む Back Kokoro Next 君の歌声に誘われて 投下順で読む Back Kokoro Next 君の歌声に誘われて 007 猫と女と太陽と クロ 067 そいつは人情派サイボーグ 007 猫と女と太陽と 広川武美 067 そいつは人情派サイボーグ 012 暗闇の旅路 灰原 069 死体を前に、灰原は問う 006 ギンガ幻影 ギンガ・ナカジマ 065 全ては、破壊のため
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メイド・アサシン imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (メイド・アサシン.jpg) タイプ:ヒューマン LV:1 (MAX:50) HP: (MAX:) 攻撃力: (MAX:) 回復力: (MAX:) スキル:キスオブヴァンパイア敵モンスターに♥の攻撃力×10ダメージ リーダースキル:なし 進化先:メイド・アサシン進化素材: 神に雇われし暗殺者。私腹を肥やすために天と地の戦いをあおる富豪を亡き者にするべく屋敷へ潜入した。 メイド・アサシン プリーステス・アサシン img_slideエラー 指定ページに画像ファイル(png,gif,jpg)が見つかりません。